【読書メモ】『ぼんやりの時間 (岩波新書)』 辰濃和男
- 要点
- 引用ベストスリー
- 1.「かなしいことに、私たち現代人は、夜空をしみじみと仰ぐ習性から次第に遠ざかっている。利潤とか、利益とか、効率とか、管理とか、豪華さとか、スピードとか、そういうものを生活の拠り所とする人びとが増え、夜空をながめるなんてむだなことだ、と思う人が増えてきた。しかし、そのむだは本当にむだなことなのか。そういうむだがあるからこそ、生活はむしろ、ゆたかなものになっているのではないか。」
- 2.「閑な時間ができることで、何よりもありがたいことは、すり減った神経、疲労、消化不良のかわりに、人生の幸福と歓喜が生まれてくることだろう。ストレスに押しつぶされていた心は、閑を上手く享受することで、徐々に心身を解放させてゆくことになるだろう。働くことでくたくたになっていては、楽しみは受け身のものになる。仕事に精力を吸い取られたものは、スポーツの試合を見る、刺激の強い映画を見る、といった受け身のたしなみにすがることになるのだ。」p.187,188
- 3.「私たちは「速く」への変速切り替えはうまいが、「ゆっくり」への切り替えはあまり得意ではない。」p.99
- 感想
- 購入リンク
要点
- 現代には、①強い刺激とその誘惑②忙しさ③それらを良しとする風潮 の3つがあり、これらにより現代人は心豊かな生活を失っている。
- 心の豊かさ、活力を取り戻すために、「ぼんやり」と時間を過ごすことが必要である。
- ぼんやりする際は、独りで刺激の少ない、休まる環境に身を置き、「何もしない」ことが望ましい。
引用ベストスリー
1.「かなしいことに、私たち現代人は、夜空をしみじみと仰ぐ習性から次第に遠ざかっている。利潤とか、利益とか、効率とか、管理とか、豪華さとか、スピードとか、そういうものを生活の拠り所とする人びとが増え、夜空をながめるなんてむだなことだ、と思う人が増えてきた。しかし、そのむだは本当にむだなことなのか。そういうむだがあるからこそ、生活はむしろ、ゆたかなものになっているのではないか。」
現代人が効率主義を盲信してしまっていることが、どれだけ悲しいことか、気がつくきっかけをくれた一文。
現代人から「ぼんやり」の時間が失われた原因の根本には、個人レベルの忙しさではなく、社会全体に浸透しきっている効率主義の思想があった。これはおそらく、日本では戦後から徐々に浸透していった価値観であり、私たちの生活の基盤となってしまっている。
この土台の上に立つ私たちには、「ぼんやり」しよう、という発想すらそもそも湧かないのだ。私もこの一文に出会っていなければ、これまで通り、これからも、せわしなく、人生をむだにしてしまっていたのだろう。
2.「閑な時間ができることで、何よりもありがたいことは、すり減った神経、疲労、消化不良のかわりに、人生の幸福と歓喜が生まれてくることだろう。ストレスに押しつぶされていた心は、閑を上手く享受することで、徐々に心身を解放させてゆくことになるだろう。働くことでくたくたになっていては、楽しみは受け身のものになる。仕事に精力を吸い取られたものは、スポーツの試合を見る、刺激の強い映画を見る、といった受け身のたしなみにすがることになるのだ。」p.187,188
自分にも心当たりがある一文だった。特に後半の「受け身」の楽しみの部分。自分も疲れやストレスを感じている時は、YouTubeをダラダラと見て、時間を無駄にしてしまうことがよくあった。自分の内部にあるストレスを、外からの刺激で解消しようとしていた。だが、それは間違っていた。ストレスを抱えている時こそ、外からの刺激を受けるのではなく、刺激を避け独りの時間をゆっくり過ごすべきなのだ。
3.「私たちは「速く」への変速切り替えはうまいが、「ゆっくり」への切り替えはあまり得意ではない。」p.99
まさしくその通りだと思った。現代人は、もはや自らの緊張をほぐし、心安らかに時間を過ごすことすらできなくなってしまっている。「ぼんやり」を良しとしない価値観に慣れきってしまい、そもそも「ぼんやり」できない。由々しき問題ではないだろうか。
感想
以下の日記でも語らせてもらった。
私たちは、「ぼんやり」と過ごす時間を軽視、人によっては敵対視すらしている。
スマートフォンに時間と思考を奪われ、自分にとって本当に大切なことを考える機会が失われている。
そんな現代社会のアンチテーゼとして、この本を薦めたい。実はぼんやりとする時間は、人生のどの時間よりも大切な時間なのである。
今日一日のできごと、考えたこと、面白かったことを振り返っただろうか。食べたご飯の味がおいしかったこと、通勤通学路の様子の変化、周りの人のさり気ない気遣い……これらに気づくことができただろうか。気づかずして、幸せだろうか。それが人生といえるのだろうか。
ぼんやりする時間を失った現代人(私を含め)は、これらの問いに適切に答えることはできるのだろうか。この本が、答えるためのヒントになることは間違いない。